ユウスゲ(夕菅、学名:Hemerocallis citrina Baroni var. vespertina (H.Hara) M.Hotta)は、ワスレグサ属に分類される多年草の1種。属名(Hemerocallis)は、hemera(1日)とcallos(美しく)の2語に由来する。和名は花が夕方に開き翌日の午前中にしぼみ、葉がスゲに似ていることに由来する。別名が、キスゲ

特徴

茎の高さは100-150 cm。根は黄色いひも状で塊にならない。根生葉は線形で、長さ40-50 cm、幅5-15 cm、2列に出て扇状に開き上部だけわずかに下垂する。1本の茎の先端が花序が枝分かれして、レモン色のラッパ状の花を上向きに次々と咲かせる。ハマカンゾウと異なり花ではアントシアニンは合成されず、花弁は赤味を帯びない。花弁は6つに深く裂け、やや芳香がある。花被片の長さや幅は個体によりいろいろで、花被片の長さは6.5-7.5 cm、花筒の長さは2.5-3 cm。雄蕊は花被片より短く、葯は黒紫色、花柱は雄蕊よりやや長い。花期は7-9月。夕方に花を開き、翌日の午前中にしぼみ、スズメガ媒花である。蒴果は広楕円形で長さ約20 mmで先端がへこむ。種子は長さ約5 mm、黒色の卵形で光沢がある。

分布と生育環境

シベリア、中国東北部、朝鮮半島、日本の温帯から暖帯の地域に分布する。

日本では本州、四国、九州に分布する。田中澄江による『新・花の百名山』で榛名山を代表する花の一つとして紹介されている。兵庫県美方郡香美町では町花に指定されている。

山地の草原や林縁などのやや乾いた場所に生育する。中部地方の山地にあるものは葉が広く大型になり、アズマキスゲと呼ばれる。本州南西部から九州のものは葉が狭く、ユウスゲまたはキスゲと呼ばれる。山野草として利用されている。

分類

クロンキスト体系・新エングラー体系などの分類ではユリ科に分類されていたが、APG IVではワスレグサ科に含められる。学名はHemerocallis thunbergii auct. non Bakerとする説、独立種とする説、中国原産のウコンカンゾウの変種(Hemerocallis citrina Baroni var. vespertina (H.Hara) M.Hotta)とする説がある。

種の保全状況評価

日本では以下の多数の都道府県で、レッドリストの指定を受けている。千葉県では絶滅したものと考えられている。海岸開発、道路工事、草地開発、自然遷移、園芸採集などにより、個体数が減少している地域がある。長野県の霧ヶ峰や滋賀県の伊吹山3合目のユウスゲ群落などでは、ニホンジカの食害により植生の衰退が危惧されている。

静岡県賀茂郡南伊豆町の奥石廊ユウスゲ公園周辺には、ユウスゲ群落があり、富士箱根伊豆国立公園の指定植物の一つとされている。南伊豆町は希少価値の高いユウスゲを保護・育成して地域資源として活用するため、奥石廊・池の原(静岡県道16号下田石廊松崎線沿い)にある日本でも数少ない群生地を整備し、雑草の刈り取りや人工繁殖したユウスゲの苗の移植などを行った。

岐阜県大垣市赤坂町の金生山にある「ユウスゲ自生地」は、2013年(平成25年)2月21日に市の天然記念物に指定された。

  • 消息不明・絶滅生物(X) - 千葉県
  • 絶滅危惧IA類(CR)- 徳島県、福岡県
  • 絶滅危惧I類(CRまたはEN) - 福井県、大阪府、島根県
  • 絶滅危惧IB類(EN)- 三重県、和歌山県、愛媛県、高知県
  • 絶滅危惧II類(VU)- 宮崎県、鹿児島県
  • 準絶滅危惧(NT)- 長野県、岐阜県、京都府、香川県、大分県
  • 希少種 - 奈良県
  • Cランク - 兵庫県
  • 分布上重要種 - 滋賀県

脚注

参考文献

  • 今井建樹『信州高山高原の花』信濃毎日新聞社、1992年6月30日。ISBN 4784092153。 
  • 大川勝德『伊吹山の植物』幻冬舎ルネッサンス、2009年10月20日。ISBN 9784779005299。 
  • 尾関雅章、岸元良輔「霧ケ峰におけるニホンジカによる植生への影響--ニッコウキスゲ・ユウスゲの被食圧」『長野県環境保全研究所研究報告』第5巻、長野県環境保全研究所、2009年、NAID 120005319022。 
  • 高村忠彦(監修)『季節の野草・山草図鑑―色・大きさ・開花順で引ける』日本文芸社〈実用BEST BOOKS〉、2005年5月。ISBN 4537203676。 
  • 田中澄江『新・花の百名山』文春文庫、1995年6月10日。ISBN 4167313049。 
  • 新田梢、長谷川匡弘、三宅崇、安元暁子、矢原徹一「キスゲとハマカンゾウの送粉シンドロームに関する花形質の遺伝的基礎を探る」『日本生態学会誌』第57巻第1号、日本生態学会、2007年3月30日、NAID 110006277369。 
  • 佐竹義輔、大井次三郎、北村四郎、亘理俊次、冨成忠夫 編『日本の野生植物 草本Ⅰ単子葉類』平凡社、1982年1月10日。ISBN 4582535011。 
  • 林弥栄『日本の野草』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、2009年10月。ISBN 9784635090421。 
  • 牧野富太郎、本田正次『原色牧野植物大図鑑』北隆館、1982年7月。ASIN B000J6X3ZE。 NCID BN00811290。全国書誌番号:85032603。https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001728467。 
  • 安原修次『伊吹山の花』ほおずき書籍、2003年8月20日。ISBN 4434033212。 

関連項目

  • ワスレグサ属

外部リンク

  • ユウスゲの標本(鳥取県岩美郡で1936年7月に採集) 島根大学生物資源学部デジタル標本館
  • Hemerocallis thunbergii Barr (The Plant List)(英語)

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